大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和40年(ネ)60号 判決

控訴人 株式会社奥野鉄工所

右代表者代表取締役 奥野忠義

被控訴人 朝日機械工具合名会社

右代表者代表社員 和泉久夫

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴会社代表者は、控訴棄却の判決を求め、当審において金一、六九五、七〇二円とこれに対する昭和三九年六月三〇日から完済まで年六分の割合による金員支払の請求を、金一、〇四五、六〇五円とこれに対する昭和三九年六月三〇日から完済まで年六分の割合による金品支払の請求に減縮した。

当事者双方の主張と証拠関係は、次に掲げるところのほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴会社代表者は、次のように述べた。

被控訴会社は、控訴会社から、昭和四〇年六月三〇日・金四三五、四一六円、同年一二月一八日・金二一四、六八一円(但し、内金一四、六八一円は現金、内金二〇〇、〇〇〇円は約束手形)、以上合計金六五〇、〇九七円の支払を受けたので、これを本件約束手形金合計一、六九五、七〇二円の弁済に充当した。

従って、控訴会社の右手形金債務は、残額一、〇四五、六〇五円である。

立証として、控訴代理人は、乙第一〇号証の一から四四まで、第一一号証、第一二号証の一から四まで、第一三号証から第一五号証までを提出し、当審における証人青木隆治、同木村久男、同宮地義人、同池田源泉の各証言、控訴会社代表者本人尋問の結果を援用すると述べ、

被控訴会社代表者は、右乙各号証の成立を認めると述べた。

理由

被控訴人主張の本訴請求原因事実については、当事者間に争いがない。

控訴人は、本件手形金債務について、被控訴人から弁済の猶予を受けており、その期限が到来していないと主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない乙第一号証から第四号証まで、乙第一一号証、乙第一二号証の一、四、乙第一三号証から第一五号証まで、原審証人池田源泉の証言によって成立を認め得る乙第五、第七、第八号証、原審および当審証人池田源泉、原審証人三宅三郎、当審証人宮地義人、青木隆治、木村久男の各証言、原審及び当審における控訴会社代表者本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、控訴人は、各種鍛造品の製造を目的とする会社であり、株式会社丸八製作所に対して一三〇〇余万円、株式会社青木商会に対して九〇〇余万円の各債権を有していたところ、丸八製作所の倒産の余波を受けて資金繰りに支障を来たしたので、昭和三九年二月六日、被控訴会社を含めた有志債権者一四社に支払手形の延べ払に関する計画表を示して協力を求め、出席債権者全員の承諾を得るとともに、控訴会社のその後の経営内容を監査するため、被控訴会社を含む五名の監査委員が選任されたが、昭和三九年二月八日、被控訴会社を含む四名の委員によって委員会が開かれ、債権確保のため、控訴会社に設備された機械等を譲渡担保として提供せしめ委員長の池田源泉の所有名義とすることを決定したこと、次いで、青木商会が不渡手形を出すに至ったので、昭和三九年三月二八日、当時、奥野鉄工協力会を組織した被控訴会社を含む有志債権者一六社による集会において、委員長池田源泉および控訴会社代表者各個人の保証のもとに右債権者等は手形の書換を受けて支払を猶予することを協議決定したこと、昭和三九年四月一〇日、遂に、控訴会社も不渡手形を出し、そのままにしておいたのでは事業の閉鎖を免れない情勢となったので、同月一四日、全債権者の集会を開いて控訴会社の再建について協力を求めることになったが、当日、それに先立って、前記有志債権者の協議の結果、控訴会社に対する被控訴会社の本件手形金債務を含む債権額二、一四六、八一四円、その他の債権者の昭和三九年三月三一日現在の一切の債権の棚上げとその支払方法に関する控訴人主張のような再建計画案を作成し、これを全債権者集会に付議することを決定した上控訴会社に対する債権者総数五三名中四八名が出席して全債権者集会が開かれ、さきに有志債権者集会で作成された債権整理再建計画案が付議され、出席債権者はこれを承認したこと、そして、引き続き、出席債権者のうちから選出された被控訴会社を含む九名の債権整理委員により開かれた債権整理委員会において、被控訴会社代表者から、今後の控訴会社の弁済計画についての要望として、再建計画による返済より、一日も早く、少しでも多く、返済するよう努力をせよとの趣旨の発言があったこと、その後、控訴会社は、右の再建計画に従って配当の実施に努めており、再建の見込があること、そして、被控訴会社は、昭和四〇年六月三〇日、右再建計画による第一回と第二回の配当金として金四三五、四一六円、同年一二月一八日金二一四、六八一円の配当金を受領したこと、また、被控訴人が控訴人を相手取り、本件以外の約束手形金の支払を求めて、広島地方裁判所尾道支部に訴を提起したが(同庁昭和四〇年(ワ)第二三号事件)、これについて、昭和四〇年一二月二一日前記再建計画による支払の猶予に被控訴人が同意していることを理由として原告たる被控訴人の敗訴の判決の言渡があり、右判決は、控訴期間の徒過によって確定したことが認められ、以上認定の経過に照らしてみれば、被控訴会社は、昭和三九年四月一四日の全債権者集会において、本件手形金債権を含む控訴会社に対する債権について、控訴会社の再建計画に従ってその弁済を猶予することを承諾し支払猶予の契約が成立したものと認めるのが相当である。原審における控訴会社代表者本人尋問の結果のうち、右の認定に反する部分は信用することができない。なるほど、前示乙第七号証の株式会社奥野鉄工所債権者集会議事録に、出席債権者全員異議なく控訴会社の整理再建計画案に賛成した旨の記載がありながら、被控訴会社の代表者の署名押印を欠いているけれども、前記証人池田源泉の証言によれば、議事録の署名者については、あらかじめ、有志債権者集会で、池田源泉、三宅三郎、和泉一夫の三名にきまっていたことが認められる。また、右証言によれば被控訴会社が、前記計画案について控訴会社から同意書の提出を求められていたのにも拘らず、これに応じなかったことを認め得るけれども、右証言によれば、被控訴会社としては、今なお控訴会社の経営を監督する必要があると考え、そのための方便として同意書の提出を控えているに過ぎないことがうかがわれる。従って、これらの事実によって、被控訴会社と控訴会社との間に前記支払猶予の契約が成立したとの前示認定を左右することはできない。そして、目下、控訴会社が前記再建計画の遂行中であって、被控訴会社が右計画による配当金を受領していることは、すでに認定したとおりであり、右支払猶予契約がその後に解除せられた事実については何等の主張立証もないのであるから、本件手形金債権残額については、まだ、期限が到来していないものというべきである。

そうしてみると、被控訴人の本訴請求は、理由のないことが明らかであって、棄却すべきものである。しかるに、これと異なる趣旨の原判決は失当であるから、本件控訴は理由がある。

よって、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条の規定に従い、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例